『相続』と聞くと、厄介なイメージが付きまといますよね。
- 「いろいろな手続きが面倒らしい」
- 「相続税の申告があるらしい」
- 「遺産分割でもめることがあるらしい」
まれに相続財産を受け取って大金を得たというポジティブな話を聞けることもあるかもしれませんが、基本的にはマイナスイメージのものが多いのが普通です。
人が亡くなっているので仕方がありません。
人が亡くなったときに生じるのが相続だからです。
とはいえ、どんな人であっても死を経験します。
ですから私たちにとって「相続」は避けられないものなのです。
だれであれ取り組まなければなりません。
もちろん、若くして亡くなり「通帳もなく相続財産が全くないから相続はない」というケースも世の中にはありますが、それはそれでよりつらい状況です。
ただ、人の死は誰しもが直面するものですが、人生で1回だけしか経験しないものでもあります。
家族がそこまで多くない現代にそれで人生で相続を何度も経験して慣れているという人は、あまりいません。
しかも、経験したとしても多くの人にとって家族の死という衝撃的な中で行われていることです。
あとからどんな手続きをしたのか思い出せないという経験もよく聞きます。
では、
相続が生じたときには、どんなことを行わなければならないのでしょうか?
どんな手続きをいつまでにしなければならないのでしょうか?
相続税の専門家である税理士という立場上、そうした質問をされることが多いのは事実です。
業務の性質として、会社を設立したり事業を立ち上げたりする人を支援する業務と違い、必ず人の死が関係するのが相続税申告業務です。
事業のスタートという前向きな業務の支援とは色合いが異なります。
人の死が関係するので商売しようという意識になりづらいのですが、困った人の助けになりたいとは感じるものです。
それで、このサイトを通して相続に関係する情報を提供していければと思っています。
1.相続開始はいつから?
相続は家族の誰かが亡くなったときにはじまります。
※実際、相続税法では相続開始という表現が人の死を表すものとして用いられてます。
もちろん相続財産が何もないなら、相続手続きというものは不要です。
相続とは被相続人の死によって財産にかかる権利義務を引き継ぐことだからです。
ただ、相続税法、相続税の対象となる人の死に起因する財産の移転には形態が3つあります。
それが、相続、遺贈、死因贈与です。
相続
遺言がない状態で、法律上の相続人に対して財産の相続がおこなわれること
遺贈
遺言書によって、財産の移転がされること
※遺言によってなされるので、財産の移転先が法律上の相続人には限られません。
死因贈与
贈与者と受贈者との贈与契約によってなされる財産の移転で贈与者の死亡によって契約の効力が有効になるものをいいます。
これらの取り扱いは相続税法上同じになります。どんなもらい方をしても税額には影響がありません。もらい方はどうであれ相続税がかかるというシンプルな仕組みです。
ただ、これらを「財産を上げるという意思表示」と「財産をもらうという意思表示」という観点から見ると、違いが際立ちます。
相続は上げる側ももらう側も最初はなにも意思を表示していない状態になります。
遺贈は遺言書があるのであげる側だけが意思を表示している状態です。
贈与契約は、上げる側ももらう側も契約書に印鑑を押しています。つまり、もらう側も上げる側も意思を明確にしています。
契約が双方合意によって成立するという認識からすると、死因贈与のみ契約として成立しています。
では、相続や遺贈は、もらう側の意志は表明できないのでしょうか?そんなことはありません。
きちんと意思表示ができます。
ただ、少し違うのは贈与契約書にサインするという積極的な意思表示と異なり、
「相続を放棄する、または遺贈を放棄する」
という意思表示の方法になります。
この放棄にはいずれにも期限があります。期限内に放棄をしなければ、財産をもらうことに同意したということになります。
「贈与契約書にサインをするしない」については、サインさえしなければ財産をもらうこともないのですが、放棄については「期限内にしないともらわなければならない」というものです。
通常の感覚とは大きく違うポイントです。
誰も教えてくれない部分かもしれませんが、なにもしなかったら「自分には責任が及ばない」という感覚でいると重大な責任を負う可能性があるわけですから、大切な情報です。
それで、細かいことを言えば、相続開始は人の死によってスタートしますが、相続・遺贈・死因贈与のいずれにしても、もらう側がOKをだして相続となります。
そうなってはじめて、手続きが必要になります。もらう側がOKを出さなければ、相続は発生しません。
2.相続人とは? 順位って?
「俺も財産もらえるのかな?」
家族や親族が亡くなった中であまり口に出して質問できないことかもしれません。
とはいえ意外と関心があるテーマです。
この点で
「自分に権利があるのか、ないのか」
「自分にどのぐらいの権利があるのか」
といったことを全員が正確に理解していると争続を避けやすくなります。
全員が自分の分を少しずつはみ出ると複雑な争いになりやすいものです。
関係者全員が自分の分とラインを認識していれば争いはさけやすくなります。
では、いったいだれが財産を相続する権利があるのでしょうか?
- まず、遺言があると遺言が優先されます。※必要があれば遺留分を考慮
- つぎに、遺言がない場合には相続人全員の話し合いで遺産分割方法を決めます。
- 最後に、話し合いがまとまらない場合、民法で規定が定められています。
この優先順位で考慮されることからわかる通り、相続分については法律で決められているものの強制力が強いものではありません。
亡くなった方の遺志や相続人の協議によって合意がみられればそれによって遺産が分割されます。
では、民法で定められている相続人や法定相続分はどのようなものなのでしょうか?
まずは、配偶者です。配偶者は常に相続人となります。
ただ、配偶者がどんな場合でも、すべての財産を相続するわけではありません。
次の順位で次に掲げる人たちと財産を分け合うことになります。
第1順位:子供
配偶者が2分の一を取得して、残りの2分の一を子供たちで均等に分け合います。
第2順位:親
第1順位の子供が一人もいない場合に、第2順位の親が相続人となります。
この場合、配偶者が3分の2を取得して残りの3分の1を親たちで均等に分け合います。
第3順位:兄弟姉妹
第1順位の子供と第2順位の親が相続発生時にいない場合に、第3順位の兄弟姉妹が相続人になります。
この場合には、配偶者が4分の3を取得して残りの4分の1を兄弟姉妹で均等に分け合います。
意外と簡単な話だったりします。
ただ、複雑になることもあります。たとえば、法定相続人が亡くなっていた場合の「代襲相続」というものや、遺言で相続人以外の人にすべての財産を遺贈することが書かれていた場合における「遺留分」、非嫡出子や国外に子供がいる場合など日本の戸籍では追いきれないケースなどもあることでしょう。
そうしたケースの場合に、自分のケースでだれが相続人となって相続分がどうなるのか。どうやって確認したらよいかということはそんなに簡単でなかったりします。
とはいえ、明確にわかることとして、子供がいる場合には、亡くなった人の両親や兄弟姉妹には相続分というものはありません。権利がないということです。財産をよこせとどんなに強く主張してもめても法律は、その人に財産をあげるように指示することはありません。
こういうことも知っていると無駄な争いを避けられるものです。
3.相続財産とは?負の財産って?
ところで相続財産ってなんだろう。。。?
自分が相続財産の8分の1をもらう権利があることはわかったものの相続財産がなんなのかわからないともらえる金額がわかりません。
自然とわいてくる疑問ですよね。
一言でいえば、亡くなった方の財産すべてが相続財産となります。
言葉でいうのは簡単なのですが、実際のところ、自分の財産がいまいくらどこにあるのかを把握するのさえ、そんなに簡単な話ではありません。
財産を持っていれば持っているほどわからないのが普通です。
それが亡くなった家族の財産となりますから、簡単でないときもあります。
一昔前と違って海外もかなり身近になりました。国外財産も相続財産になります。国によって事情が異なりますので、時に相続財産の情報を得るのも容易ではありません。
とはいえ、難しい難しいとばかりは言ってられません。
相続財産のすべての把握をしやすくするため、ある程度、
相続財産の分類をしておきたいと思います。
【プラスの財産】
- 現金(外貨含む)、小切手、預金
- 不動産(土地、建物)
- 有価証券
- 国債、証券投資信託等
- 上場企業の株式
- 上場していない会社の株式
- 出資金
- 事業用財産
- 売掛金、貸付金などの債権
- ゴルフ会員権
- 特許権、実用新案権、著作権、漁業権等の無形資産
- 動産
- 家庭用財産
- 自動車、電話加入権
- 宝石、書画、絵画、骨とう品など
相続財産には負の財産もあります。
【マイナスの財産】
- 借入金
- 事業上の債務:買掛金、未払金等
- 未払税金等:所得税、住民税、固定資産税等
- その他未払金:未払家賃、未払医療費
- 預かっている保証金、敷金など
かなりの種類があります。チェックするときの参考にしていただければと思います。
※上記が相続財産ですが、
相続税の計算上、相続財産と一緒に計算されるものがいくつかあります。
- 生命保険金
- 死亡退職金
- 死亡前3年以内の贈与財産
- 葬儀費用
生命保険金は、亡くなった人からの財産ではなく保険会社から支払われるものなので厳密には相続財産ではないのですが、相続税がかかるので一緒に金額を計算しなければならなくなっています。
それぞれの金額がいくらなのかどうやって確認したらよいのか?
どうやったら遺産分割が確定するのか?
といったテーマについては別の記事で。
4.相続に必要な手続きの流れ
相続に関係する手続きの大まかな流れは下記のとおりです。
- 死亡
- 遺産分割→遺産分割協議書の作成
※相続、遺贈の放棄については3か月以内 - 亡くなった方の亡くなった年の所得税の確定申告(4か月以内)
- 相続税申告(10か月以内)
- 財産の名義変更
※財産の名義変更には期限なし。
相続・遺贈の放棄と税金の申告については法定期限があります。
期限についての詳細につきましては、また別の記事で詳細なところを書きたいと思います。
一番簡単であり、かつ一番大変になるものが親族で行われる遺産分割協議になります。
遺言があったり家族や親族全員が仲が良く気心が知れていると弁護士など立てなくてもスムーズに話し合いがまとまります。
一方で、法律で定められた相続人の権利を無視して一部の人が強行に財産を取得しようとしたりすると、弁護士をたてて裁判をしたりということが起こってしまいます。
相続でもめるということは歴史記録を見ても2000年以上前から存在する問題のようです。
こうしたことから明らかなように、相続で家族でもめた場合に特別な解決策はありません。
もめることで財産の総額が増えることはありません。
全員で円満な遺産分割ができることを願うのみです。
税務関係で一番期限が遅い手続きが、相続税申告手続きです。
相続税は亡くなった方の全財産に課税します。すべての財産を把握し、価格を査定し、だれに相続されるかを定めて相続税を申告します。
相続でもめて未分割の状態でも申告期限が来たら申告はしなければなりません。
それについては「また別の記事」で。